当店で扱う時計のメンテナンスについて、
いずれも流れ作業のごとく「ただ修理」しているわけではありません。
古い時計は同じものでも1点1点コンディションが異なります。
それゆえ1点モノ特有の「出会い」という楽しみがあります。
しかし状態によっては当時の面影を完全に残すことはできません。
時々入荷するカルティエでの修理品は、
入荷時のコンディションのままでは売りたくないという想いから、
カルティエで修理依頼をしています。
当然、自社で修理をすることも同じくらいあるので、
全ての時計のコンディションを見極めてその時計に見合った必要な修理を行います。
こちらはサントスガルベの自動巻きモデルの文字盤。
機械ごと抜いていますが左右の違いは一目瞭然。
左は少し焼けがありますが抜群のコンディション。
右は文字盤全体にヒビ割れのある状態。
個人的には右側のものが好きだったりしますが、
こういうのは要望がない限りお客様へ販売はしません。
こういった「劣化」は経年によって起きますが、
今の製品のように一律同じ規格で製造されている時代のものではなく、
パーツの製造場所によって多少ことなります。
例えばロレックスの文字盤は昔スイス、ドイツ、イギリスで製造されていましたが、
国や地域が異なれば気温や湿度などの環境が変わります。
そのため同じ色とされていても色味が異なったりします。
特に分かりやすいのがグレーやブルー。
それは当時の塗料の技術では変色などが起きやすかったとされています。
現在の生産については分かりませんが、
昔の時計は今のように良くも悪くも「キッチリ作っていない」んですね。
少しアバウトなところがあったり、
新品と言いつつ管理がしっかりしていないからキズがあったり。
今そんなことがあればSNSなどでたちまち上げられますね。
それはさておき、
カルティエに修理を出さない場合は大体これくらいのコンディション。
少しボヤやけて分かりにくいかもしれませんが、
元々真っ白だった文字盤が経年で程よく焼けてクリーム色に。
こういうのがヴィンテージウォッチらしくて良いですね!
基本的に当店では文字盤が綺麗な場合は自社で修理しますが、
あくまでも自社基準なので多少ヒビがあっても全体の雰囲気が良ければ同様です。
このぐらいになるとカルティエで文字盤交換を行います。
書き換え(リダン)は基本的にしませんが、
やるとしてもコストの面でさほど金額差はありません。
そのため文字盤交換を依頼するのですが、
何故だかリダンは「無料」でやってるものだと思われている節があります。
文字盤の「版」を作って塗装を一回剝がして綺麗にプリントしてと作業をすると、
結構な手間がかかります。
金額も職人さんの作業工賃を考えれば安くありません。
こういう劣化は経年によるものが主ですが、
元々の塗料の問題や使用、保管の状況も影響していると思います。
当時のカルティエの製品がどこで文字盤を作っていたのかは分かりませんが、
「スパイダー」なんて呼び方をされるロレックスも同じくらいの年代、
そして同じような状態の文字盤なので、
ひょっとしたら同じ工場で文字盤の製造をしていたのかもしれません。
ちなみに時計は各パーツ別々の会社で製造していることがほとんどなので、
全てのパーツを自社で一貫しているところは本当に稀なメーカーです。
ただこういう文字盤のコンディションだから仕入れが安いと思われがちですが、
気持ち安いかなくらいでそこまで大きく変わりません。
そのためカルティエで修理をしたらほとんど利益は出ず、
外装の状況次第では赤字になることもあります。
それでも自分が好きなものを扱いたいという想いもあり、
何よりヴィンテージウォッチは本当に「1点モノ」なので、
何とかして世に送り出したいのです。
時計に限らずヴィンテージ品は1点モノであると同時に、
全てのアイテムが「一期一会」の出会い。
自分が綺麗だと思うものが100%の正解ではなく、
自分のように「ボロさ」に目を向ける人間もいたりします(相当稀有ですが)。
お金を払えばいつでも買えるものではなく、
お金だけでなくタイミングも合わさらないと出会いは無い。
そういったところにもヴィンテージ品の面白さを感じてもらえれば幸いです。