本日入荷しました「カルティエ・マストタンク」は「must de」表記がプリントされる前の通称プレマストタンク。
プレマストタンクには2種類あり北米仕様と欧州仕様が共に入荷することは初めてです。

正確な資料などが無いため未だに謎の多いプレマストタンク。
自身で調べた資料を基にあくまでも個人的な見解とはなりますが、
カルティエが一般販売を始めた1972年にカルティエ・ニューヨークが、
タンクルイのデザインを元に安価な時計を売ろうとして製造したものがプレマストタンクのはじまり。
当時はフランス本社のカルティエとは別資本だったため、
このようなことがあったのだと推測しております。
しかし偽造品などがあまりにも多く出回ったため、
フランス本社のカルティエが1976年に発表したのが「マスト・ドゥ・カルティエ」シリーズ。
翌1977年から生産されたのが一般的なマストタンクですが、
欧州仕様のプレマストタンクについては北米仕様との差別化なのか、
マストタンクのプロトタイプなのか、実際のところは分かりません。
ただフランス本社とニューヨークのカルティエとの関係は色々な情報がありますが、
タンクニューヨークなどの貴重なアイテムがあったりするので、
本社並みにニューヨークのカルティエも力のある会社なのだと思われます。

さて話を戻していきますと、
北米仕様はケースがネジ留めではなくスナップバックケース仕様となり、
簡素な構造となっているのが特徴です。
1970年代では割と多いケースの構造となり、
極稀にタンクルイでもスナップバックケース仕様のものが出てくるので、
何かしらの関係があるのかもしれませんね。

文字盤の表記と裏蓋のロゴの刻印は筆記体で書かれており、
文字盤とケースにスイスで製造された「SWISS」の表記も確認できます。
今回の個体はケースに小キズなどはあるものの、
過去にあまり使われた形跡が見られないかなり綺麗なもの。
文字盤もダメージがほとんど見られず、針に若干の変色があるくらい。
ベルトは当時物で尾錠も恐らく純正。
念のためカルティエで修理見積もりを依頼し本国で検査。
コンプリートサービスと同時に針とガラスの交換を勧められておりますが、
その他のパーツに関しては何も指摘が無いため純正であると判断しております。
針は毎回交換を勧められるのですが、文字盤については今回初めて交換は必要のないとのことで、
個体のコンディションの良さが伺える結果となりました。
メーカー修理については9月に価格改定があったため正確な金額は分かりかねますが、
今回の見積もりではコンプリートサービス約¥80,000、針交換無料、ガラス交換約¥80,000でした。
ただオリジナルであることが間違いないので、メンテナンスは弊社で行っております。
そして今回の欧州仕様のプレマストタンクは非常に興味深いものでした。

過去に何度か扱いのあったプレマストタンクですが、
こちらの個体は過去にカルティエで文字盤交換を行ったとみられるもの。
プリントなどはほぼ同じなのですが、文字盤の質感がポーセリン(陶器)のような艶のある質感。
従来はマットホワイトに近い質感なのでこの違いを見られるとは思いませんでした。
針は欧州仕様だとスチールブルーですが、
過去に別の個体をカルティエで修理見積の際に「ブラックに変更」と見積書に書かれていたので、
こちらはブラックの針が取り付けられています。
この年代の時計でもメーカーではパーツを持っていることに驚きますが、
有償とは言え古い時計でもメンテンナンスを行ってくれるカルティエの良心に感動します。

ケースのデザインや裏蓋は北米仕様との違いが最も顕著。
ネジ留め仕様ということもありますが、刻印の違いなども見られ、
欧州仕様と北米仕様の違いを比べられます。
こちらの個体はケースに年式相応のダメージはあるものの許容の範囲。
文字盤は言うまでもなく極上コンディションで、
ムーヴメントも非常にキレイなコンディションです。
欧州仕様は尾錠のデザインも異なり、また一つ謎が深まります。
今回は当時の純正ボックスも付属するので、
コレクションする際に嬉しいポイントとなりますね。
過去にプレマストタンクは両方の仕様で扱いがありましたが、同時入荷は今回が初めて。
各ディティールの違いを見比べることができる機会は多くありませんので、
個人的にもかなり興奮しております。
謎が多く正確な情報が無い面白さのあるプレマストタンクは、
もしかしたら今後その全貌が分かる日が来るのかもしれませんが、
今のところわかる範囲でお伝えできればと思っております。
ただ北米仕様も欧州仕様も共に資料的価値の高い時計であることは間違いありませんので、
以前からお探しだった方はぜひこの機会は絶対にお見逃しなく!

